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コンパイラ(compiler)とは、プログラミング言語で書かれたプログラムを、コンピュータが直接実行可能な機械語のプログラムに変換するソフトウェアである。また、コンパイラによる変換工程をコンパイルと呼ぶ。ただし、Visual Studioなど一部の開発環境ではビルド とも言う。 コンパイル前のプログラムを特に「ソースコード」(原始コード)と呼び、反対にコンパイル後のプログラムを「オブジェクトコード」(目的コード)と呼んで区別する。 多くの場合、コンパイルされた機械語プログラムの実行は、インタプリタを介した実行より高速である。反面、開発時には動作テストのたびに比較的時間のかかるコンパイル作業が必要である。 コンパイラが出力するオブジェクトファイルは、実際に実行するコード以外に外部からの呼び出しをするための名前と、実行開始位置をセットにした情報を持っている場合があり、外部からコードを参照して実行することができる。場合によっては実行できるソフトウェアにするために、ほかのオブジェクトファイルとのリンクが必要なこともある。
歴史初期のコンピュータのソフトウェアはアセンブリ言語で書かれていた。高級プログラミング言語の開発は、コンパイラ開発のコストよりもソースコードを異なるCPU上で再利用する利点が上回るようになるまで行われなかった。初期のコンピュータは記憶装置の容量が少なく、コンパイラの実装には様々な技法が駆使された。 1950年代末までに、機械に依存しないプログラミング言語が提案され、実験的なコンパイラがいくつか開発された。世界初のコンパイラは1952年、グレース・ホッパーが書いたA-0プログラミング言語である。1957年、IBMのジョン・バッカスのチームが開発したFORTRANが一般には世界初の完全なコンパイラであるとされている。1960年のCOBOLは複数のアーキテクチャ上でコンパイル可能となった最初の言語の1つである[1]。 様々なアプリケーション領域で高級言語というアイデアは素早く浸透していった。プログラミング言語が新たに登場するたびに機能が拡張されていき、コンピュータのアーキテクチャそのものも複雑化していったため、コンパイラはどんどん複雑化していった。 初期のコンパイラはアセンブリ言語で書かれていた。世界初のセルフホスティングコンパイラ(コンパイル対象言語で書かれたコンパイラのソースコードをコンパイルできるコンパイラ)は1962年にマサチューセッツ工科大学の Hart と Levin が開発したLISPである[2]。1970年代にはコンパイル対象言語でコンパイラを書くのが一般化したが、PascalとC言語で言語を実装するほうが一般的であった。セルフホスティング・コンパイラの構築には、ブートストラップ問題がつきまとう。すなわち、コンパイル対象言語で書かれたコンパイラを最初にコンパイルするには、別の言語で書かれたコンパイラが必要になるという問題である。Hart と Levin の LISPコンパイラではコンパイラをインタプリタ上で動作させてコンパイルを行った。 教育用コンパイラコンパイラ構築とコンパイラ最適化は、大学での計算機科学や情報工学のカリキュラムの一部となっている。そのようなコースでは適当な言語のコンパイラを実際に作らせることが多い。文書が豊富な例としてはニクラウス・ヴィルトが1970年代に教育用に設計した PL/0 がある[3]。PL/0 は単純だが、教育目的にかなった基本が学べるようになっている。
分類オブジェクトコードが機械語ではない別のプログラミング言語である場合、あるいは扱う言語がプログラミング言語ではない言語処理系一般(TeXなど)の場合はコンパイラではなくトランスレータと呼ぶ場合がある。コンパイラでは多くの場合、ソースコードの言語は、人間向けの簡潔な言語(高級言語)であり、オブジェクトコードはコンピュータが直接実行可能な機械語(プログラミング言語に含めないこともある)である。機械語が特定のプロセッサ群の「固有語」であることから、機械語プログラムを「ネイティブコード」とも言い、またネイティブコードを出力するコンパイラを「ネイティブコンパイラ」という。 コンパイラは翻訳機と言えるもので、入力するプログラミング言語と対象となるCPUやオペレーティングシステムによるオブジェクトコード形式によって、違う形式のオブジェクトを生成する必要がある。一般的には1つのプログラミング言語を1つのオブジェクトコード形式に変換するものがよく使われる。 開発環境とは別の環境で実行できるコードを生成するコンパイラは、クロスコンパイラと呼ばれる。新しいコンピュータが開発されるとき、BIOSやOSなどもっとも基本となるプログラムについて、既存のものがそのままでは実行できない場合がある。あるいは、組み込みシステムやPDAなど、それ自体が開発環境を動作させるだけの性能を持たない場合がある。こういった場合、クロスコンパイラが必要になる。同じCPUの場合はセルフコンパイラ。 直接CPUで解釈実行可能なコードを生成せずに、中間コードを生成し、別のインタプリタによって実行するものもある。これを中間言語コンパイラ、バイトコードコンパイラなどと呼ぶ。インタプリタ・コンパイラとは呼ばない。インタプリタを作るためのコンパイラがあれば、インタプリタ・コンパイラと呼んでもよい。 ワンパスとマルチパスコンパイラは様々な処理の集合体であり、初期のコンピュータではメモリ容量が不十分であったため、一度に全ての処理を行うことができなかった。このためコンパイラを複数に分割し、ソースコード(あるいは何らかの中間的な表現)に何度も処理を施すことで解析や変換を行っていた。 一回でコンパイルが可能なものをワンパスコンパイラと呼び、一般にマルチパスコンパイラよりも高速で扱いやすい。多くの言語はワンパスでコンパイルできるよう意図して設計されている(例えば、Pascal)。 言語の設計によっては、コンパイラがソースコードを複数回読み込む必要がある。例えば、20行目に出現する宣言文が10行目の文の変換に影響を与える場合がある。この場合、一回目のパス(読み込み)で影響を受ける文の後にある宣言に関する情報を集め、二回目のパスで実際の変換を行う。 ワンパスの欠点は、高品質のコードに欠かせない最適化を行いにくいという点が挙げられる。最適化コンパイラが何回読み込みを行うかというのは決まっていないが、最適化の各フェーズで同じ式や文を何度も解析することもあるし、一回しか解析しない箇所もある。 コンパイラを小さなプログラムに分割する手法は、研究レベルでよく行われる。プログラムの正当性の判定は、対象プログラムが小さいほど簡単なためである。 マルチパスコンパイラは最終パスで機械語コードを出力するのが普通だが、次のような変種も存在する。
コンパイラとインタプリタソースコードをコンパイラによってコンピュータが直接実行可能なプログラムに変換して実行するプログラミング言語のことをコンパイラ言語と呼ぶ。これはインタプリタを介して実行されるインタプリタ言語と対比した言い方である。ただし、多くの言語は、コンパイルされる場合・インタプリタを使って実行される場合のいずれもあり、あくまでどちらが主流であるかを示すものである。コンパイラ言語・インタプリタ言語のどちらにも分類できない言語もある。一般に、コンパイラ言語は、言語仕様がコンパイラ向きに、インタプリタ言語は、言語仕様がインタプリタ向きになっている。 例外として言語仕様にコンパイラの存在が前提とされているものもある(例えばCommon Lisp)。また、インタプリタの実装が非常に容易なのにコンパイラの実装が困難な言語仕様もある(APL、SNOBOL4など)。スクリプト言語なども実行時にソースコードに文字列操作を施して評価するため、コンパイラ実装は困難である。このような機能をコンパイラで実装するには、実行環境としてコンパイラ自体を実行コードに付属させる必要がある。 ハードウェア・コンパイラFPGAなどのハードウェアを対象としたコンパイラも存在する。この種のコンパイラをハードウェア・コンパイラとも呼ぶ(詳しくはReconfigurable computing参照)。 設計コンパイラは、一般にソースコードを読み込み、トークンに分解する字句解析部、トークン列をもとにプログラムの構文木を構築する構文解析部、構文木からオブジェクトコードを生成するコード生成部からなる。加えて、コード生成の前段階で効率の高いコードに変換する最適化部を持つことがある。 プログラミング言語の文法規則からコンパイラの作成に必要な字句解析部・構文解析部を生成するソフトウェアをコンパイラコンパイラと呼ぶ。コンパイラコンパイラはコンパイラを全て生成するわけではなく、オブジェクトコードの生成部等は別途作らなければならない。 コンパイラ設計手法は処理の複雑さ、設計者の経験、利用可能なリソース(人間やツール)に影響される。 比較的単純な言語のコンパイラを1人で書く場合、単一でモノリシックなソフトウェアとなることが予想される。ソース言語が巨大で複雑なもので、高品質の出力を要求される場合、コンパイラを多段階に分割して設計していくことになるだろう。コンパイラ機能の分割により、複数の人々がそれを分担することになる。また、分割することで個別の改良が容易となり、新たな機能の追加(例えばさらなる最適化)が容易になる。 コンパイル処理の分割を採用したのはカーネギーメロン大学での Production Quality Compiler-Compiler Project (PQCC) であった。このプロジェクトでは、「フロントエンド」、「ミドルエンド」(今日では滅多に使われない)、「バックエンド」という用語が生み出された。 非常に小さなコンパイラ以外、今日では2段階以上に分割されている。しかし、どういったフェーズ分けをしようとも、それらフェーズはフロントエンドかバックエンドの一部と見なすことができる。フロントエンドとバックエンドの分割点はどこかというのは論争の種にもなっている。フロントエンドでは主に文法的な処理と意味論的な処理が行われ、ソースコードよりも低レベルな表現に変換する処理が行われる。 ミドルエンドはソースコードでも機械語でもない形式に対して最適化を施すフェーズとされる。ソースコードや機械語と独立しているため、汎用的な最適化が可能とされ、各種言語や各種プロセッサに共通の処理を行う。 バックエンドはミドルエンドの結果を受けて処理を行う。ここでさらなる解析・変換・最適化を特定のプラットフォーム向けに行う場合もある。そして、特定のプロセッサやOS向けにコードを生成する。 このフロントエンド/ミドルエンド/バックエンドという分割により、異なるプログラミング言語向けのフロントエンドを結合したり、異なるCPU向けのバックエンドを結合したりできる。この手法の具体例としてはGNUコンパイラコレクションや Amsterdam Compiler Kit、LLVM がある。これらは複数のフロントエンドと複数のバックエンドがあり、解析部を共有している。 フロントエンドフロントエンドはソースコードを分析して、中間表現または IR と呼ばれるプログラムの内部表現を構築する。また、シンボルテーブルを管理し、ソースコード内の各シンボルに対応したデータ構造に位置情報、型情報、スコープなどの情報を格納する。このような処理はいくつかのフェーズで実施される。例えば以下のようなフェーズがある。
バックエンド「バックエンド」という用語は「コード生成」という用語と混同されることが多い。アセンブリ言語コードを生成するという意味で機能的にも類似しているためである。書籍によっては、バックエンドの汎用解析フェーズと最適化フェーズを「ミドルエンド」と称してマシン依存のコード生成部と区別することがある。 バックエンドに含まれる主なフェーズは以下の通りである。
コンパイラ解析とは、コンパイラ最適化の前に行われる処理で、両者は密接な関係がある。例えば依存関係解析はループ変換実施に重要な意味を持つ。 さらに、コンパイラ解析と最適化の範囲は様々であり、基本的なブロック単位の場合からプロシージャや関数レベル、さらにはプログラム全体を対象とすることもある(プロシージャ間最適化)。広範囲を考慮するコンパイラほど良い結果を生成する可能性があるのは明らかである。しかし、広範囲を考慮する解析や最適化はコンパイル時間やメモリ消費のコストが大きい。これは特にプロシージャ間の解析や最適化を行う場合に顕著である。 最近の商用コンパイラはプロシージャ間解析/最適化を備えているのが普通である(IBM、SGI、インテル、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズなど)。オープンソースのGCCはプロシージャ間最適化を持たない点が弱点だったが、これも改善されつつある。他のオープンソースのコンパイラで完全な最適化を行うものとしてOpen64がある。 コンパイラ解析と最適化には時間と空間が必要となるため、コンパイラによってはデフォルトでこれらのフェーズを省略するものもある。この場合、ユーザーはオプションを指定して明示的に最適化を指示しなければならない。 簡単な例以下のプログラムはC言語で書かれた非常に単純なワンパス・コンパイラである。このコンパイラは中置記法を逆ポーランド記法にコンパイルすると共に、ある種のアセンブリ言語にもコンパイルする。再帰下降型の戦略を採用している。このため、各関数が文法における各非終端記号に対応している。
#include <stdlib.h>
#include <stdio.h>
#include <string.h>
#define MODE_POSTFIX 0
#define MODE_ASSEMBLY 1
char lookahead;
int pos;
int compile_mode;
char expression[20+1];
void error()
{
printf("Syntax error!\n");
}
void match( char t )
{
if( lookahead == t )
{
pos++;
lookahead = expression[pos];
}
else
error();
}
void digit()
{
switch( lookahead )
{
case '0':
case '1':
case '2':
case '3':
case '4':
case '5':
case '6':
case '7':
case '8':
case '9':
if( compile_mode == MODE_POSTFIX )
printf("%c", lookahead);
else
printf("\tPUSH %c\n", lookahead);
match( lookahead );
break;
default:
error();
break;
}
}
void term()
{
digit();
while(1)
{
switch( lookahead )
{
case '*':
match('*');
digit();
printf( "%s", compile_mode == MODE_POSTFIX ? "*"
: "\tPOP B\n\tPOP A\n\tMUL A, B\n\tPUSH A\n");
break;
case '/':
match('/');
digit();
printf( "%s", compile_mode == MODE_POSTFIX ? "/"
: "\tPOP B\n\tPOP A\n\tDIV A, B\n\tPUSH A\n");
break;
default:
return;
}
}
}
void expr()
{
term();
while(1)
{
switch( lookahead )
{
case '+':
match('+');
term();
printf( "%s", compile_mode == MODE_POSTFIX ? "+"
: "\tPOP B\n\tPOP A\n\tADD A, B\n\tPUSH A\n");
break;
case '-':
match('-');
term();
printf( "%s", compile_mode == MODE_POSTFIX ? "-"
: "\tPOP B\n\tPOP A\n\tSUB A, B\n\tPUSH A\n");
break;
default:
return;
}
}
}
int main ( int argc, char** argv )
{
printf("Please enter an infix-notated expression with single digits:\n\n\t");
scanf("%20s", expression);
printf("\nCompiling to postfix-notated expression:\n\n\t");
compile_mode = MODE_POSTFIX;
pos = 0;
lookahead = *expression;
expr();
printf("\n\nCompiling to assembly-notated machine code:\n\n");
compile_mode = MODE_ASSEMBLY;
pos = 0;
lookahead = *expression;
expr();
return 0;
}
この単純なコンパイラの実行例を以下に示す。
Please enter an infix-notated expression with single digits:
3-4*2+2
Compiling to postfix-notated expression:
342*-2+
Compiling to assembly-notated machine code:
PUSH 3
PUSH 4
PUSH 2
POP B
POP A
MUL A, B
PUSH A
POP B
POP A
SUB A, B
PUSH A
PUSH 2
POP B
POP A
ADD A, B
PUSH A
参考文献
関連項目外部リンク
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